除夜舞27周年
この冬2回目の雪が降った寒い大晦日の晩、明大前キッド・アイラック・アートホールの年越し企画、除夜舞27周年を観に行った。自宅からは自転車でさーっと行ってこられるような場所なのだが、雪が積もっているのでさすがに徒歩&電車で出かけた。
9時の開演に30分くらい遅れてしまい、竹田賢一の大正琴の演奏を見逃してしまう。着いたときは2番目のヒグマ春夫の映像作品の上映中。客席正面の壁の上のほう、あと天井からステージに向かって映像が投影されている。ステージ上では白い衣装の女性パフォーマーが大きな白い布で鶴を折っている。ヒグマ春夫の今までに観た作品よりも抽象的な模様っぽい映像だった。
次が鬼沢順子の一人芝居。クリスマスのケーキのネタにはじまり、精神病院の病棟ネタなど。特別な小道具も使わず、一人称の語りのみで20分演じきっていたのは見事。
次の大串孝二は、側面の壁の一角を透明なビニールで覆い、その中で最初のうちは水を、後半では墨(?)をまぜた水をビニールの覆いに跳ね飛ばすなどのパフォーマンス。足元には鏡が斜めに立て掛けて置いてあり、反対側の側面に向かって照明を反射させている。壁側には一畳ほどの大きなキャンバスが立てられているが、キャンバスに向かうことはほとんどなく、しかし墨で汚れた手をキャンバスに向かって後ろ手にはたいたりして抽象的な図柄を描いていく。最後はビニールの覆いを破って出て、鏡で光を反射させた反対側の壁に墨で汚れた手で手型をつけていた。ビニールで囲ってあったとはいえ、激しいパフォーマンスで場内が墨で汚れたのでその後しばらく休憩。
後半一番目の平野晶広は、街中で配られている情報誌を小道具に使った舞踏。白いコートの裾からのぞく素足を痙攣させつつ、壁際で身体を斜めに保つ体勢をとったり、最後は情報誌を広げてゆっくりと前進するなど、舞踏のゆっくりとした動作で失業者の苦悩のようなものを表現。とはいえ、バックに流す音楽が明るいのと本人のキャラクターがあいまって、そんなに湿っぽい雰囲気にはならない。そのへんはもちろんねらいどおりなのだろう。
次の細田麻央は逆立てて膨張させたような髪に顔は白塗り、破けたような裾の黒いワンピース姿で登場。妖艶で、奔放さも併せ持つ美しい舞踏だった。最初は場内を軽快に跳ね回ったりするなど可愛らしさを見せつつも、次第にゆっくりとした動作で闇の世界にひきずりこんでいく。そのたたずまいだけでも非常に雰囲気があったが、黒い布を使って顔を隠したり、ベールのように頭にかぶったりするのも効果的で良かった。
次の若尾伊佐子はBGMなしで20分間のダンス。白いキャミソールの衣装から剥き出しの手足の微細な動きや身体そのものを丁寧に提示するような感じ。最初は縮こまって横になって震えているところからはじまり、立ち上がったり再び地面に座ったりするものの、舞台の中央からほとんど場所を移動することもないし、速い動きを連続させるような技も使わない。照明も天井からのスポットが1つ使われているだけ。極端に演出を廃した冒険的な試みに、ひたすら緊張して見入ってしまった。
最後は徳田ガンの舞踏。都市の雑踏の音をバックに、白い帽子とコート姿で会場をゆっくりゆっくり横切っていく。最後のほうでは場の中央でゆったりと手先を動かしたり前に屈む動作。小刻みだけれどもしなやかな動きが美しい。感情的な要素を廃したシンプルな動きで、まるでそこに昼間の町並みがひろがっているかのような感覚を起こさせてしまう。すばらしかった。
徳田ガンの舞踏が一段落ついたところで、暗転のなかサエグサユキオによるアナウンス。12時を1分ほどまわってしまったようだ。それから出演者全員によるコラボレーションに突入。ヒグマ春夫はたくさんの折鶴を舞台上に投げ、映像の投影をはじめる。竹田賢一は大正琴とラップトップのPCを使った演奏。他の出演者たちは思い思いの動きで表現をし、その動きをとらえた映像がまた重ねて映写される。細田麻央は最初はコートにブーツ姿で歩き回り、また最後のほうでは首をかしげながら折鶴を手に取ったりしてかわいらしい魅力をふりまく。若尾伊佐子は折鶴をけちらしながらのダンス。鬼沢順子は鈴のようなものを持って荘重な雰囲気をかもしだしながら場内を歩いてまわる。だいぶ経ってから先ほどのパフォーマンスで使ったキャンバスを持って現れた大串孝二は、キャンバスに「あけましておめでとう」と書く。その墨で汚れた手で、また平野晶広のTシャツの背中に手型をつけたりしている。
他にもいろいろな光景が数十分繰り広げられ、やがて終演となった。出演者の自己紹介があり、それから地下のカフェ「塊多」に移動してシャンパンで乾杯。鬼沢順子さんのお手製のごまめがすごくおいしい。他にもお刺身、おでんなどたくさんあったけれど、夜ご飯もしっかり食べていたものだからほんの少しずつつまんだ。
座ったのが大串孝二さんの隣だったので、いまいちつかみどころのなかったパフォーマンスの内容についていろいろ語っていただく。パフォーマンス中のいろいろな行為に関して、「跳ね」が大事であるとか「存在と意味」だとかいくつかのキーワードを得ることはできたが、なんだか聞けば聞くほど余計につかみどころがなくなってしまった。こちらからもうちょっとうまい質問をなげかけることができればよかったのかもしれないが。今年はラスコーの壁画を解読するのだそうだ。あの動物の絵は人間の脳みそを逆さまにして投影したものなのだとか。
ヒグマ春夫さんはイランの美術館でおこなわれた日本人アーティストを集めたグループ展に参加したそうだ。この展覧会はTHE RISING SUNと題されていて、見せていただいたパンフレットは白い厚紙に丸い穴があけられて赤い色が丸くみえるようになっている。外国からみたイメージで日本=日の丸というのは強力にあるものなのだなぁと思った。映画監督のアッバス・キアロスタミも関係しているらしく、パンフレットに名前が載っている。今度キアロスタミの写真作品を日本で紹介したいとおっしゃっていた。
あとは若尾伊佐子さん、平野晶広さん、サエグサユキオさん、サノトモさんらのテーブルで歓談。ここに名前を挙げたのはきのうのPERSPECTIVE EMOTIONでも会った人ばかり(あと竹田賢一さんもPERSPECTIVE EMOTION出演者だ)。他にそのテーブルにいたのはサノトモさんのお友達の佐藤さん。サノトモさんとデクノ・バラクーダというユニットを組んで絵を描いているそうだ。若尾伊佐子さんに聞いた話だと、あのダンスは植物のイメージであるらしい。なるほど。ストイックな表現だったのでやたらに抽象的に考えすぎながら観てしまっていたかもしれない。無音で照明もほとんど変わらないのに20分の時間配分ってどうやるんですか? と聞いたら、家で何度かリハーサルをしたとのこと。あっさりとそう答えていたけれど、これはすごいことだと思う。今度のテルプシコールのソロ公演では1時間ぐらい無音で踊るのだそうだ。
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