g-p.s.(楽園をみつめて、そして・・・)
万城目純さんの新作映像作品『g-p.s.(楽園をみつめて、そして・・・)』が上映されるイメージフォーラム・フェスティバルのAプログラムを観にいった。会場は新宿パークタワーホール。今日の上映は増田直行(ギター)、矢野好士(キーボード)、久田祐三(パーカッション)、小柳昌博(ギター)によるW.B.O記念伴奏団の生演奏つきということで楽しみ。
初台駅で下車して会場に向かう途中にあるギャラリーに寄り道。ケンジタキ・ギャラリーでは塩田千春 新作展「砕けた記憶」が開催されていた。塩田千春は2001年の横浜トリエンナーレでの巨大インスタレーションが記憶に残っているが、あのような巨大な作品自体がバブル時代の名残を感じなくもない上に、作品に対する客観性をあまり観てとることができない妙にシリアスな作品だったことで、あまり評価する気になれなかったというのが正直なところ。でも不況の時代に合わせたようなこじんまりした作品をつくるアーティストが増えていくなかで、今でも強力なインパクトで記憶に残っていることも事実である。新作「砕けた記憶」はギャラリーじゅうに細かくはりめぐらされた黒い糸のところどころに鏡の破片が置かれている。やはり表現行為として新鮮さなどは感じられないのだけれど、何の説明もなくても視覚的なイメージとして伝わってくるものはあった。
そのお隣のワコウ・ワークス・オブ・アートではジョアン・ジュナス展。正面の壁にはエジプトなどで撮影されたと思われる映像、脇には黒板に渦巻きやピラミッドやスフィンクスを書いている小さい映像が投影されている。あとギャラリー内には肘掛つきの長いすと幼稚園などにありそうな子供用の椅子。どちらも木製で彩色されている。ぱっとみたところ何を意味しているのかよくわからない作品。正面の映像では砂漠の中からTVやラジオのようなものを掘り出したり(そのラジオのようなものもギャラリー内にあった)、街中を車で走っていたり、作者のギャラリーでの展覧会でのパフォーマンス風景が流れたり。ちょっとぐらい観ていてもやはり良くわからないことには変わりないが、どういったことに興味の視点を置いて作品を制作しているのかはなんとなく伝わってくるし、まぁそういうことで良いのだろうということにしてギャラリーをあとにした。
そこからパークタワーホールまではもうすぐ。会場にたどりついてからは、チラシを漁ったり、ロビーで上映されているスイスのアーティストのヴィデオ作品を観たり。大好きなピピロッティ・リストのヴィデオ・クリップがあって嬉しい。曲はずっと前に観た2面の直角の壁に映像を投影したインスタレーションでも使われていたクリス・アイザックの「Wicked Game」のカヴァーだけれど、今回上映されていた映像はそれとは違っていた。しかしこの曲でのピピロッティ・リストの唄声(&叫び声)には本当にやられたという感じ。「I'm victim of this song」というタイトルがつけられているけれど、わたしもまたこの曲の犠牲者。当時いろいろ調べてやっと入手したピピロッティが唄っているヴァージョンのこの曲のCDをいろいろな人に聞かせまくったものだった。
ロビーの脇のほうには伊藤隆介による映像インスタレーション『Realistic Virtuality』。人物や照明、TVカメラなどすべてが精巧に作られた報道番組のスタジオのミニチュアセットが展示されていて、TVカメラはモーターでまわる円盤に取り付けられた糸にひっぱられて前後に動いている。そのカメラに捕らえられた映像は拡大されて壁に投影されていて、映像で観ると本物の報道番組の映像みたい。おもちゃみたいにかわいいセット、妙に簡単な仕組みで前後に動くTVカメラと、リアリティある壁の映像とのギャップがわかりやすくておもしろい。
そんなこんなでうろうろしている間に若尾伊佐子さんや山崎幹夫さんなどにお会いする。そしてまもなくAプログラムの上映開始ということでホール内に移動。このプログラムは一般公募の大賞受賞作品を含んでいることもあり、注目が高い様子。万城目さんの作品で演奏するミュージシャンが全然見えないけれど、画面が良く観える後ろのほうの真ん中あたりの席を確保。
最初に上映されたのが万城目純さんの『g-p.s.(楽園をみつめて、そして・・・)』。最初は長いこと暗転の状態が続き、口琴の音が会場に響く。ギターは流麗なメロディを奏でることはなく、ディレイなどのエフェクトを多用した効果音的で抽象的なサウンドが中心。そこにシンセサイザーのサウンドが彩りを添え、パーカッションのリズムが起伏をつくっていく。映像はガラパゴス諸島で8ミリフィルムで撮影されたという動物や自然を撮影したもの。人間は一切登場しない。普段見かけることのない変わった動物の生態も興味深いけれど、ごつごつした岩や海、ひたすら広い空が光の具合でどんどん変化していく様子が素敵。万城目さんの代表的な作品でよく観られるコマ撮りによるめまぐるしい映像効果は一切使われず、未開の地でゆったり流れる時間をそのまま映しとったようなシンプルな画だった。最後のほうでパーカッションのリズムが盛り上がっていき、シンセサイザーが白玉音符の和音をベンディングで変化させていく中、映像は船から撮影した海や島を捕らえながらパンしていき、だんだんと露出オーバー気味の白っぽい画面になっていくところが印象的だった。
次に上映されたのが相原信洋の『Yellow Night』。手書きイラストのアニメーション。ちょっと毒気のあるイラストだけれどなかなかオシャレにまとまった作品。
その次は小池照夫の『生態系-14-留』。海辺にある藤壺をコマ撮り(静止画で撮影?)してめまぐるしい速さで構成したもの。最初に「速い動きが苦手なかたは目をつぶっていてください。」という注意書きテロップが出るだけのことはあって、素材の映像は渋いけれど画面は終始チラチラと変わり続ける。サイレント作品だった。
そして一般公募部門入選、大山慶の『診察室』。これも手書きイラストのアニメーション。診察に来た患者、医者、そして子供、太った婦人などが登場。明確に語られるストーリーはないものの、それぞれの場面はストーリーを喚起させるような不穏な雰囲気を伝えている。けっこう不気味な画だけれどディテールの細かさに脱帽。
次は奥山順市の『現像処方 Dev-18』。リトアニアの現像所を撮影したという静止画映像に奥山順市自身によるナレーションではじまる。奥山順市の作品は以前もイメージフォーラム・フェスティバルで観ているが、フィルムや現像手法そのものに工夫を凝らした実験映像でありながらひょうひょうとしたユーモラスなナレーションが入るのが特徴。タイトルのDev-18というのは「デブ嫌」なのだそうだ。自家現像のフィルムを無理矢理4枚重ねて投影した映像とのことだけれど、どうやってフィルムに焼き付けた映像なのか作品中で語られることはない。専門家にはもしかしたら現像液の成分などを語るナレーションなどから想像がつくのかもしれないけれど。
最後は一般公募部門大賞、瀬戸口未来の『ははのははもまたそのははもその娘も』。ある意味女性的と言うことができるような(名前から勝手に女性と判断していますが)グロくて執拗な作品だった。廃墟が出てきたかと思うと、洗面所でいかをさばいたり、生のレバーみたいなかたまりをハイヒールの靴でぐにょぐにょになるまで踏み潰したり、ゼリーをぶちまけた床を転げまわったり。正直なところ苦手なタイプの作品。全編に作者自身のものと思われるナレーションがかぶさる。母がどうのこうのという内容を語っているのだけれど、そういうのもちょっと苦手。でも気持ち悪いと思いつつも最後まで観させてしまうだけの編集力は感じたし、すさまじい労力をつぎこんで徹底的に作り上げられた作品だと思う。こういうのがイメージフォーラム・フェスティバルで大賞をとるのはなんかわかるな、って感じ。
上映終了後は作家によるトーク。大賞受賞の瀬戸口未来は来場していなかったようだが、それ以外の作家が壇上に勢ぞろい。正直言ってあんまりめぼしい話はなかった。一般公募部門入選の大山慶はかなり若そう。作品のエンド・クレジットに「協力 かわなかのぶひろ」と出ていたので、おそらく学生だろう。この『診察室』は今年のカンヌ国際映画祭の監督週間に出品されるそうだ。去年の辻直行、宮崎淳に続く快挙である。
場内ではサノトモさんと佐藤さんに遭遇。サノトモさんはあした大阪でライヴだそうだ。万城目さんや音楽担当の人たちの後片付けを待って、十数人でぞろぞろと移動。途中で散りぢりになりながら新宿駅方向に向かい、万城目さん、今日の生演奏のバンドのギタリストの増田直行さんら8人でさくら水産で打ち上げ。皆今日の上映作品に対してけっこう手厳しい意見。わたしも大賞受賞作家に関しては、ああいうインパクトの強い作品で世に出て、これからもあの執拗さで作品を作り続けていくことができるのだろうかと懐疑的な気分。
その後同じ店内に小池照夫、相原信洋がいるらしいことが判明して合流。席を移動すると小池照夫さんが横笛を吹いていらっしゃった。なんという笛なのかよくわからないけれどとてもお上手だ。しかし個室になっているわけでもないのにずいぶんと寛容な飲み屋。なんでも小池さんはよく自身の作品の上映時に生演奏するらしい。今回は万城目さんの上映も生演奏つきだったからコラボレーションでもという話もあったそうなのだが、事前に準備する時間がなかったらしい。
そのうち一番奥のほうの席に山崎幹夫さんがいらっしゃるのを発見したので挨拶に行く。山崎さんは小池照夫ファンなのだそうだ。「小池さんの作品、渋いヴィデオ・ドラッグって感じですよね~」「大賞受賞作はいかにもイメフォって感じですよね~」「『診察室』はフランス人は好きそう」と盛り上がる。山崎さんの向かいにはミストラルの水由さん、片山さんがいらっしゃった。国立のキノ・キュッヘでお会いしたことがある。片山さんは帰りの電車で数駅一緒でお話ししたことも。お二人ともわたしに見覚えがあったようで嬉しい。5月15日(日)におこなわれる上映会のチラシをいただいたけれど、この日は高遠さんの上映もあるので残念。
時間もだいぶ遅くなり、一時期はずいぶん大所帯だった宴会も人がだんだん少なくなっていく。今日はいろいろな人に会うことができて充実した日だった。
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