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独身者たちの夢

ギタリストの高橋裕さんが企画した「<鉄線>ミーティング-独身者たちの夢-」を観に、Studio 蕨「鉄線」に行った。ここに来たのははじめて。高橋裕さんからのご案内のメールによると「古い木造建築の1Fを改造したスペースで、以前はアンテナ製造~シュークリーム等菓子製造~パチンコ店の従業員の独身寮」だったそうだ。京浜東北線の蕨駅から徒歩10分ぐらいの住宅街の中にある。「日本の高度経済成長期、働き疲れた独身者たちは二段ベッドで何を夢見ていたんだろう?」と考える企画とのこと。

仕事帰りでちょっと開演に遅れてしまったが、受付で配布されたプログラムによると、はじまって2曲目の演奏中だったみたい。最初に出演していたのは桜井真樹子(声明、ヴォーカル)+高橋裕(ギター)デュオ。日本古来のお祭りや歴史を題材にした現代の民謡といった趣。シンプルで味わい深い高橋さんのギター、透き通った桜井真樹子のヴォーカルは一聴して軽やかですがすがしくもあるのだけれど、自身のアイデンティティを探求するかのような文化への深い造詣によって裏打ちされる重みと求心力にはいつものことながら感嘆させられた。

最初演奏がおこなわれていた部屋は元食堂だったらしい15畳ぐらいのスペースだが、その後、元は二段ベッドが2つ置かれていたという小部屋に移り、電気を消した暗闇の中で、桜井真樹子の声明とノイズ合唱団によるヴォイス・パフォーマンス。ヴォイス・パフォーマンスは寝室であることを意識した人のイビキや寝息の擬態的ヴォイスからホーメイまでいろいろ。ドイツのメールス・ジャズ・フェスティバルでは途中入退場禁止で真っ暗闇の中で演奏されるステージがあるらしいのだけれど、それをヒントにしているのかどうかはわからない。暗闇でライヴを聴くというのはそれ自体とても変わっているのだけれど、桟敷状態で狭いところに密集してムンムンした中で聴くという体験がそれに勝っていたように思う。寝苦しい暑い夏の夜を想起させられ、芝居を観る感覚に近いものがあった。

その次は隣の応接室に移動して昭和歌謡コーナー。高橋裕さんが今日の出演者をゲスト・ヴォーカリストに迎えて昭和歌謡の演奏。後半はフレンSの嵯峨治彦(馬頭琴)が演奏に加わった。ヴォーカルは曲ごとに入れ替わっていたが、桜井真樹子が唄った「夢は夜ひらく」が特に心に残った。

それからしばらく休憩。そのあとはまた食堂に戻って元倍音Sの徳久ウィリアム幸太郎率いるノイズ合唱団によるパフォーマンス。メンバーは徳久、畠中、岩崎、五十嵐、菊川の5人。マイクを使って声にもならないようなノイズを発したり、ホーメイや朗読も交えたパフォーマンスをおこなう。桜井真樹子の声明&笛、嵯峨治彦の馬頭琴も加わって、混沌とした雰囲気を生み出していた。最初はメンバーのほとんどは別の部屋に隠れてパフォーマンスしていたのが効果的。いったいどうやって出しているのかわからないような不思議な声によるサウンドが四方八方から迫ってくる様は実にダイナミック。緊張感を伴った音響的なおもしろさもあるのだけれど、むしろ声を使っていることでユーモラスな雰囲気が醸し出されるのが特徴的。前にMANDA-LA2で観たときよりもパフォーマンスとして良く練られていて、期待をはるかに超えるおもしろさだった。

その次は、さきほど真っ暗闇で演奏を聴いた小部屋に移動。嵯峨治彦の馬頭琴ソロが2-3曲。ここまでの嵯峨治彦の高橋裕さんやノイズ合唱団とのコラボレーションでは、あまり思い切り弾いていない感じがしていたのだが、このコーナーでの演奏は見違えるほどすばらしかった。「モンゴルの伝統的な曲です」といったMCも交えて本格的な馬頭琴の演奏を聴くことができたのが実に有意義だった。

最後は食堂に戻ってフレンSの演奏。嵯峨治彦(馬頭琴)、たなかたかこ(ギター他)、横田和子(馬頭琴)の3人組。モンゴルの有名な曲をアレンジした曲は変拍子ばりばり。民族音楽的な素朴さに現代音楽的な要素も感じられるアンサンブルは、親しみやすくもあるけれど聴きごたえがあっておもしろかった。最後は他の出演者も加わり、この企画のフィナーレを飾った。

古い住宅をそのまま生かした会場の雰囲気がとても良く、さらに会場を余すことなく利用して(市村美佐子によるイラストやコラージュの展示もあった)今日の出演者全員が有機的に関わって作り上げていく企画の独自性がすばらしい。普段ライヴを観に行くのとは一味も二味も違った特別な体験をすることができて大いに満足した。

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