« 三上寛 / みみのこと | Main | dive »

誤解

中野のテルプシコールに17番劇場による公演『誤解』を観にいった。出演者である若尾伊佐子さんに事前にご案内いただいた内容によると、セリフはカミュによる戯曲を別の人が朗読し、それにあわせて演技をするのだという。そう言われると咄嗟にク・ナウカを思い出すけれど、ク・ナウカの方法はまた独特だし、普段はダンスで名を知られている若尾伊佐子さんがどんな演技をするのかも想像がつかなかった。

会場で配布されたパンフレットによると、このカミュの戯曲作品「誤解」のストーリーは、小説「異邦人」の中の新聞の切り抜き記事として登場しているらしい。「異邦人」は昔読んだけれど、情けないことにその新聞記事については記憶にない。ステージ左右には、アンティーク調のたくさんの椅子が積み重なるようにワイヤーで吊られて、ところどころ赤い花が飾られている。ステージ奥のほうには2つずつ重ねて置かれた椅子が数脚、蝋燭が置かれた台が2つ。

正面に「一幕 誤解・拒絶」だったか、そのような文字がプロジェクターで投影され、満員の場内が暗転になることもなく静かに公演がはじまった。セリフを朗読する人(丸健介)は客が入ってくる入り口から登場し、舞台上手側の手前のほうに座る。マルタ役の細田麻央、その母親役の若尾伊佐子が舞台の奥から登場。セリフの朗読はおそらく日本語訳された戯曲の文章そのまま。あまり感情をこめることなく、淡々と読み進む。役者はパントマイムのように沈黙したまま演技をするが、ときどき朗読の人が沈黙してその部分のセリフを言ったり、また朗読の人と役者が同時に同じセリフを言ったりすることもあった。

若尾伊佐子の動きはやはりどことなくダンスっぽい。静止しているときも微妙な腕の形やたたずまいが緊張感を保ち続けている。年老いた母親ということで、そんなに大きい派手な動きで見せるような役柄でもなく、ゆったりと優雅さを感じさせるやわらかい動き。たまに発する言葉もはかなげで良い。

細田麻央も舞踏家だけれど、17番劇場の公演には今までにも出演しているようで、さすがに役者として慣れている様子。心のうちに激しい気性を秘めたマルタ役は感情移入がしやすいということもありそうだ。奥のほうに重ねられた椅子を舞台上にランダムに並べたり、その椅子を倒していったり、大きな音をたてて足を踏み鳴らしたり、象徴的で奔放な動きは静かな芝居のなかにメリハリをつけていた。

ずっと昔に家出をし、外国を放浪して故郷に戻ってきたマルタの弟、ジャン役(愛海鏡馬)と、その妻のマリア役(長谷川葉月)の二人は特に舞踏やダンス畑の人ではないようだ。随所にダンス的な要素のある振り付けがあったものの、長いセリフも自身で語る場面が多く、普通に役者らしい演技をしていた。しかし若尾伊佐子、細田麻央に比べるとその分生々しい。マリア役は特に感情的なセリフを言う場面が多く、決して演技そのものに問題があったわけではないが、芝居全体のなかではどうしても浮いた感じがしてしまう。ダンサーもいて役者もいて朗読する人もいて、スタイルの違ういろいろなものが一つの舞台上でまざっているところがポイントなのだろうが、やはりどうしても若尾伊佐子、細田麻央の存在のほうがより傑出して観えてしまう。とはいえあまり観たことのないスタイルの演劇公演で非常に新鮮だった。

マリアとその母親は訪れた男性が自分の兄、息子であることに気がつかないまま殺してしまう。母親はそのことを苦にして死んでしまうのだが、そのときの若尾伊佐子がすばらしかった。淡々とした朗読をバックに、その仕草とたたずまいによって深い絶望や思索を表現。そして最後2分くらいは思いっきりダンス。そこまでの抑制された動きとの対比もあり、死というものが解放のようなものと穏やかに結びついていく様子は悲しくもあり、共感もし、非常に感動させられた。若尾伊佐子のダンスのあと、舞台は初めて暗転。再び明るくなったときには若尾伊佐子は舞台上から消えている。それからマリアがマルタを訪ねてくるシーンがあり、最後は細田麻央のダンス。ステージ上で水をかぶり、靴とタイツを脱ぎ捨て、激しく踊りまくる細田麻央は尋常でなくすごかった。今までに観た細田麻央の舞踏は、たとえば昨年末の除夜舞など顔を白塗りにしているのにもかかわらず可愛らしいという印象だったのだけれど、今回は演技の部分でも大きな目を見開いてすさまじい形相を見せるような場面が多く、狂気を感じさせる熱演だった。

終演後、加藤さん、(陰猟腐厭の)増田さんを発見。そして若尾さんともお話し。「自分でセリフを言うこともなく、朗読にあわせて気持ちを高めていかなくてはならないのが難しい」とおっしゃっていた。本当に派手な動作によって表現できない部分が多い役柄で大変だっただろうけれど、そういう役柄だからこそ、ダンスの素養が生かされていたと思う。若尾さんの実際の年齢よりもずっと歳上の役だけれど、やつれた感じもよく出ていたし、申し分のない演技だった。増田さんが細田麻央さんに話しかけていたので、わたしも便乗して細田さんに感想をお伝えした。細田さんは「わたしは役者ではないので」と謙遜されていたけれど、並の役者さんよりもずっとすばらしい演技だった。

その後は加藤さんと増田さんとテルプシコールの並びにある飲み屋へ。みんなそんなにおなかがすいていなかったということもあるけれど、ビール1杯とお通しだけで食べ物を頼むこともなく閉店まで話し続けた。閉店が11時半だったからよかったけれど、午前までやっているお店だったら終電を逃してしまったかも。

|

« 三上寛 / みみのこと | Main | dive »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 誤解:

« 三上寛 / みみのこと | Main | dive »