今日もLA CAMERAで映画の上映会。しまだゆきやすさんが企画した「背徳映画祭」の一環で、しまださんの旧作を一気に6本上映するプログラムを観た。上映作品は『ケーフェイ~偽の妹』『MIDORI』『妹とブルックナー』『rain』『お化けトンネル』『向島の女』。前半3本は8ミリフィルムによる作品で、後半はデジタル・ヴィデオによる作品。しまださんの映画は、今回の上映作品以前の古いものを数本観たことがある。
前半で上映された8ミリ作品は、しまださんのちょっとオタクっぽさが入った耽美趣味の映像がとても美しい。しかし、近親相姦を匂わせるような兄と妹の関係といったモチーフがありきたりな感じもする。また、妙に作りこまれた力み具合がかえって作品を壊してしまっているような気もする。一方後半で上映されたヴィデオ作品は、その力みが抜け落ちてむしろ観やすい雰囲気。しまださんが、ヴィデオで制作するのってどんな感じなんだろうなどと思いながら、いろいろ手法を試している息遣いが伝わってくるような感覚があって、おもしろかった。
それから夜はDamon & Naomi with Kuriharaのライヴを観に渋谷O-NESTへ。上映会がけっこう押したので時間ぎりぎりになってしまったけれど、ライヴはまだはじまっていなかった。場内で川田さんを発見し、一緒に一番前に陣取る。場内はそんなに混んでいなくて、フロアの前のほうの客は床に座っている。O-NESTはステージの高さが50センチくらいはあるので、思い切り見上げるような体勢だ。
最初に出演したのはテニスコーツ。客席が明るいうちから植野隆司がステージでギターを独奏していて、さや(ヴォーカル/キーボード)、フルート/コーラスの人、ドラムの人がステージに登場し、そのまま本番がはじまった。テニスコーツのライヴはそのときによって全然違うのだけれど、今回のライヴはさやの物憂げなヴォーカルの唄モノ中心。楽器の音はそんなに前に出ることなく、唄に合わせてそっとつっかえながらついていくような感じ。植野隆司は曲によってはテナー・サックスを吹いていた。
次が三上寛。こないだ観たときはアンプラグドのアコースティック・ギターだったけれど、今回はGretchのエレアコ。来日アーティストの前座ということで、普段とはかなり違うであろう客層を前に白熱した演奏。地べたに座って食いつくように観ている客に向かってじゃかじゃかとギターを掻き鳴らし、曲が終わるごとに「ありがとうございました」を極端に短縮して最後の「たー」だけになったような(?)かけ声を挙げる。三上寛のライヴは良く観ているけれど、今日のライヴはいつになく力がみなぎった演奏。前座ということで時間が短いせいか? いつもはどちらかというとしみじみとして聴き入ってしまうのだけれど、この日のライヴはなんだか力をもらったような感じがした。テニスコーツも三上寛もそれぞれ30分くらいの演奏だった。
そしてDamon & Naomi with Kurihara。デーモン(ヴォーカル/アコースティック・ギター)、ナオミ(ヴォーカル/ベース/キーボード)、栗原ミチオ(ギター)、そしてアルバムに参加しているBhob Rainey(ソプラノ・サックス)の4人がステージに登場。デーモンが客席に「コンバンハ」と語りかけてライヴがはじまった。1曲目はVashti Bunyanのカヴァー「Winter is Blue」。ナオミがヴォーカルをとりながらメロディアスなベースラインを奏で、デーモンがアコースティックギターを弾き、サビではコーラスをとる。曲の終わりのほうでは栗原ミチオのギターとBhob Raineyのソプラノサックスの音色が優しくかぶさる。元曲を知らないのだけれど、とてもおだやかでピースフルな演奏。そして2曲目は三上寛と友川かずきに捧げられた「Ueno Station」。哀愁を帯びたデーモンの唄が心に沁みる。次の「House of Glass」はうってかわって、ナオミの透明感のある優しいヴォーカルに包まれる。最後のほうでは一気に曲を盛り上げていく栗原ミチオのギターソロが気絶しそうなぐらいすばらしかった。次の「Turn of the Century」では再びデーモンがヴォーカル。
ここで馬頭將噐(アコースティック・ギター)が加わり、アルバム「Damon & Naomi with Ghost」収録の「The New World」を演奏。馬頭將噐のギターはアルバムで聴くとおりのライン。しかしちょっとあやうい感じの演奏だった。馬頭將噐はここまでのDamon & Naomiのツアーには参加していなかったし、リハーサルがあまり十分ではなかったのかも、と思う。そして次は栗原ミチオのソロアルバム収録の「The Wind's Twelve Quarters 」(「風の12方位」)。デーモンは、ナオミが「half Japanese, half english」で唄うとMCで話していた。この曲はアルバムでは朝生愛が歌っているが、もともとは栗原ミチオがギターで参加しているThe Starsで演奏されていた曲。The Starsで石原洋が唄っていた英語詞と、朝生愛の日本語詞を混ぜてナオミが唄う。しかし、自身の曲のわりには栗原ミチオのギターがあまり目立たなかったのが残念。一方でBhob Raineyのソプラノサックスはナオミのヴォーカルとかけあいをするような感じで終始ムーディなメロディを奏でていた。ナオミの日本語は見事。一音節ずつそっと発音する慎重な唄いかたは、外国人らしいと言えばそうなのだけれど、言葉が聴き取りづらいところもないし、どことなくはかなげな感じが心にひっかかってきてとても素敵。英語詞を唄うのは主にサビの部分で、そこではデーモンがコーラスを入れていた。
次はアップテンポな「Beautiful Close Double」。デーモンが弾くギターのザックザックと力強いコードストロークと、栗原ミチオのアルペジオを織り交ぜた美しいメロディラインが印象的。そして次はGhostのカヴァー「Awake in a Muddle」。Damon & Naomiのアルバム「Playback Singers」に収録されているこの曲をまたライヴで聴くことができて嬉しい。それに続く「A Second Life」は、栗原ミチオの嵐のように激しいギターソロ、そしてそのソロの上にさらに優しいナオミのヴォーカルが重なって曲を盛り上げていく。
そして最後の曲と言ってデーモンが紹介したのがカエターノ・ヴェローゾの「Araca Azul」。「英語ではblue guava」という説明は前回の来日時のMCにもあったと思う。デーモンは一曲一曲とても丁寧な曲紹介をするのだけれど、この曲の説明は特に長め。ライヴ中盤はずっとナオミのメイン・ヴォーカルの曲が続いていたけれど、この曲はデーモンがヴォーカルをとった。どこか遠くから聞こえてくるような、静謐ではかない感じのする元曲とは全然違っていて、ギターのコードに乗せてしっかりとした声で唄う。MCではimposibilityとか話していたと思うけれど、デーモンのヴォーカル、ギターに力強さを感じた。唄が一段落したところから栗原ミチオのE-bowを使ったギターの音でつなげて曲は「The Earth is Blue」へと移り変わる。この流れは崇高で美しく、本当に宙高く舞い上がっていくようだった。アルバムと同じ展開だけれどライヴで聴くのはまた格別。栗原ミチオのギターの音色の豊かさに圧倒された。
ここでメンバーはステージをいったん退場。しかしそんなに間を置くこともなく、すぐにアンコールがはじまった。アンコール1曲目はGalaxie 500の「Blue Thunder」。でもGalaxie 500のヴァージョンとは全然違うメロディの唄い出し。このときは曲紹介もなく演奏がはじまって、最初は何の曲だかわからなかったほど。2度目の来日公演(渋谷クラブクアトロ)のアンコールでこの曲を演奏したときはGalaxie 500ヴァージョンとほとんど一緒だったのだけれど。Galaxie 500の曲の中でも人気の高い曲だし、今回このようにリアレンジして演奏するのは、単なるサービス精神で演奏しているわけではないという意思表示みたいなものもあるのかなと思う(深読みしすぎ?)。栗原ミチオのボトルネック奏法も、曲に新鮮な味わいを加えていた。続いてジャックスの「遠い海へ旅に出た私の恋人」のカヴァー。再びナオミが日本語で唄う。3度目の来日公演(吉祥寺スターパインズカフェ)ではじめて聴いたときは驚愕したけれど、いまやすっかりDamon & Naomiのライヴでおなじみの曲。栗原ミチオのギターのアレンジもほぼ毎回固定。この曲ではデーモンも日本語でコーラスをとる。
メンバーがステージを去り、BGMが流れはじめた。しかし拍手が鳴り止まず、2度目のアンコール。曲はアルバム「Damon & Naomi with Ghost」に収録の「Tanka」。少ない音数でゆっくりとはじまり、だんだんと即興的に演奏される音が隙間を埋めていくこの曲は、やはりライヴで聴くのがすばらしい。ステージに馬頭將噐、栗原ミチオもいてこの曲を聴くことができるのはGhostファンとしても非常に嬉しい。
これでライヴ終了。1時間半弱、たっぷり楽しむことができた。選曲は去年のMANDA-LA2公演とだいぶ重なっていたけれど、今回のほうが演奏は全体的に良かったと思う。今回はデーモンとナオミも立って演奏していて、バンドっぽくてカッコ良かった。終演後、機材を片付けに出てきたメンバーに話しかける客も数人いて、わたしもチケットの裏にデーモンとナオミのサインをいただくことができた。
今回はじめて観るソプラノ・サックスのBhob Raineyは、わりとムーディでオシャレなフレーズを上モノ的に入れているのが栗原ミチオのギターとかぶってしまうこともあり、Damon & Naomi with Kuriharaの3人の完成された世界のなかでちょっと浮いて聴こえてしまう場面もあった。静かめの曲では、栗原ミチオの柔らかくて夢見心地なギターの音色とモアレ状にからまって、なんともいえない良い雰囲気を醸し出していたが、ダイナミックにギターソロを弾くような場面だとソプラノ・サックスによる細やかなメロディが邪魔に聴こえてしまうときもあった。最新アルバムで聴くホーン入りのサウンドは、ちょっとゴージャスな感じがしてとても気に入っていたのだけれど、単音しか出すことができない管楽器1本ではアルバム同様というわけにはいかないのだろう。同じく最新アルバムに参加しているトランペットのGreg Kelleyも一緒に来日してくれていたらまた違う印象だったかもしれない。馬頭將噐は5曲目の「The New World」以降は全曲参加していたけれど、あまり目立たなかった。でもGhostファンとしては馬頭將噐がステージ演奏する姿を観ることができて嬉しい。この日の帰りのエレベータで、たまたまGhostのキーボーディスト、荻野和夫さんと乗り合わせて少しお話することができた。
そして4日後の6月23日、NHK-FM LIVE BEATの収録で、再びDamon and Naomi with Kuriharaのライヴを観た。開演の7時ぎりぎりに会場に駆け込んだときには、すでにかなりの人が前のほうに陣取っていたが、ほとんどはもう一つの出演バンド、ムーンライダーズのファンだった様子。Damon & Naomi with Kuriharaの出番が先。この日のデーモンの最初のMCは「ゲンキデスカ?」。セットリストは初日から「Turn of the Century」「The New World」「Tanka」をのぞいた選曲で、通して1時間強の演奏だった。「Ueno Station」でデーモンが曲紹介の中で「演歌」という言葉を放ち、しーんとして聞いている客席の反応に次の瞬間「スミマセン」と話していたのが印象的。「Blue Thunder」はかなり最初のほうで演奏して、デーモンは「Very old song」と紹介していた。ナオミが日本語で唄うジャックスの曲は、曲紹介なしに前の曲に続いてすぐはじまった。ムーンライダーズ・ファンの客は、ナオミが日本語で唄うのを聴いてびっくりしたのではないだろうか。本人たちもそれを狙って、わざと曲紹介なしに続けてやったのかもしれないなどと考えたりして観ていた。
この会場は段差がまったくないので、ほとんどステージが見えなかったのが残念。それに曲によっては音のバランスもあまり良くなかった。ステージが広すぎて音があまり混ざらないから、アコースティック主体のバンドの中で栗原ミチオが弾くエレクトリック・ギターの音がちょっと浮いて聴こえてしまう場面もあり、特に「A Second Life」のソロでは栗原ミチオのギターの音が大きすぎたと思う。でも、それに負けじとデーモンが激しくギターを掻き鳴らしていているのが、見えなかったけれど、音で良くわかったし、熱気がとても伝わってきた。どちらかというと静かめの曲のほうがこの会場にはあっていたみたい。最後の「Araca Azul ~ The Earth is Blue」は本当に美しくて感動的だった。
ムーンライダーズのときは急に音が大きくなってびっくり。というかDamon & Naomi with Kuriharaのときは全体的にやたら音が小さいと思った。収録だから爆音での演奏はそぐわないだろうし、彼らのサウンドは小さい音でも十分に魅力的なのだけれど、アコースティックの楽器の音やヴォーカルももう少し大きく出していれば、もっといい感じのバランスになったのではないかと思う。放送では問題ないだろうけれど。
ムーンライダーズのライヴを観るのははじめてで、曲はあまり知らないけれど、それなりに楽しみにしていた。しかし、なにしろステージがほとんど見えないのが辛い。しかもヴォーカルの鈴木慶一(曲によっては別の人がメイン・ヴォーカルをとっていたようだが)は座って演奏。最後のほうになって立って演奏し、やっと頭が見えたという状態だった。ドラムは本来のメンバーのかしぶち哲郎ではなく、カーネーションの人がヘルプで入っていたのだけれど、とても良かった。ベテランのバンドらしいマイペースぶりで和やかな雰囲気だったし、曲もちょっとおもしろい感じ。でも、できれば全盛期に観ておきたかったと思った。
6月24日のDamon & Naomi with Kuriharaの日本公演最終日(渋谷O-NEST)は、どうしてもはずせない仕事があって、会場到着は9時半過ぎになってしまった。最初からそうなることはわかっていて、でも最終日の公演だし何かスペシャルなことがあるかもしれないと思ってチケットを買っていた。場内に入ったときは「Araca Azul ~ The Earth is Blue」の演奏がはじまったところ。着いたばかりであまり落ち着いて聴くことができなかったけれど、本当にこの曲の演奏は美しい。
ここで本編終了。ドリンクをもらい、観やすい場所へ移動。前のほうの客は床に座っているので、場内の段差のところまで出て行くととても良く見えた。1回目のアンコールはなんと三上寛との共演。三上寛が最初に「船頭小唄」を唄い出し、そのバックにそっと伴奏が入ってくる。演奏は「Ueno Station」。2番を引き継いでデーモンがオリジナルの歌詞を唄う。そのようにして交互に唄い、サビでは三上寛がかすれるような叫び声を上げ、言葉を吐き出す。ところどころナオミもコーラス。ナオミと三上寛が一緒のマイクで唄っている姿はあまりにもレアな光景。たくさんの声が交錯し、カオティックな様相を帯びたすさまじいステージだった。
2回目のアンコールはGalaxie 500のカヴァー、「Blue Thunder」。ここで一気に静かなDamon & Naomi with Kuriharaの世界に引き戻される。ナオミが弾くベースラインはGalaxie 500のヴァージョンとほとんど変わらないけれど、Bhob Raineyのソプラノ・サックスの穏やかな音色がピースフルな雰囲気を醸し出す。栗原ミチオのボトルネック奏法のギターは、控えめだけれどうっとりするような美しい音色。
これでライヴは終了。前のほうで観ていた伊藤さんと落ち合う。この日のライヴは、前座は初日のO-NESTと同じなのだけれど、テニスコーツに栗原ミチオがゲストで参加したのだそうだ。見逃して悔しいけれど、その組み合わせだったらまたいつか観られる機会があるかもしれない。終演後、今日はちゃんとCDとサインペンを持ってきていたので、栗原ミチオ、ナオミ、デーモンにまたサインをしていただく。他にGalaxie500のDVDにサインをいただいている人もいた。その人は、大阪公演も観に行ったのだそうだ。
最終日は、わたしが来るより前に「The Robot Speaks」や「Song to the Siren」も演奏していた様子。できれば最初から観たかったけれど、三上寛との共演に間に合って本当に行った甲斐があった。「船頭小唄」、デーモンがMCでそのように話していたにも関わらず、ライヴで観ていたときはそれだと気がつくことができず、そうしたらあとで伊藤さんが歌詞を検索して野口雨情作詞だと調べてくださった。伊藤さんも「三上寛良かったね」という反応だったので嬉しい。
Recent Comments