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蒼二点

千石の三百人劇場で「ソビエト映画回顧展」開催中。第二次世界大戦中、1943年のマルク・ドンスコイ監督作品、『戦火の大地』を観る。チラシによれば「ウクライナが舞台のリアルタイム反ナチ抵抗映画の傑作」とのこと。ドイツ軍による占領下で祖国への誇りを失わずにたくましく生活する民衆を描いたばりばりのプロパガンダ映画だけれど、とても戦時中に作られたとは思えないような丁寧で美しい画。こういうところ、さすが旧ソ連と感心。

それからバスで移動し、上野の国際子ども図書館3Fの本のミュージアムで開催されている展示「ロシア児童文学の世界~昔話から現代の作品まで」を観覧。ガラスケースに入っていてページをめくることもできないけれど、美しい装丁や挿絵を眺めているだけでもかなり満足(「世界を知るへや」という図書室で実際に読むことができる絵本も数冊あり)。

それからまたバスで千石まで戻ってアレクセイ・ゲルマンによる1976年の作品、『戦争のない20日間』を観た。すでに観ている作品なのだけれど、戦時中の緊張感とささやかにロマンチックな平常の生活のコントラストがなんともいえない。また何度でも観たいと思う映画だ。

午前中からロシア三昧の忙しい一日だったけれど、夜は江古田のCafe FLYING TEAPOTで蒼二点のライヴ。7時ぐらいからだと思っていて、江古田についてからもCD屋とかBOOK OFFなどふらふら寄り道してからお店に向かうと、なんと入り口に5時半スタートと書いてある。出演順も把握していなかったので、蒼二点が終わってしまっていたらどうしようと思いつつも店内へ。

ステージにはキーボードx2、エレクトリック・ギター、そしてMCをしている人の4人。何かのバンドの演奏中なのだろうと思っていたら、MCをしていた人は数分喋りたおしたあと客席へ。単なるトークタイムだったのか? でもおもしろかった。離婚した奥さんの話など、内容は深刻なものだったけれど。

ステージに残った3人はアーバンギャルズというバンド。ギターの人の弾き語りが主体となっているけれど、合いの手を入れるようにヘンなことを弾いたり、ヴォコーダーなども利用してコーラスを入れる鍵盤2人の演奏がおもしろい。ギターはかなり投げやりなコードカッティングのみ。全体的にかなりゆるいノリだけれど、ヴォーカルの声が良くて意外と聴きやすい。

次がJON(犬)。イヌの着ぐるみを身につけて足踏みオルガンを演奏。5年くらい前に観たことがあるけれど、その時の印象とほとんど変わらない。「川くだり、川くだり、男の世界」って唄う曲がインパクトがあって記憶に残っていたのだけれど、今回もその曲を演奏していた。映画「フィッシング・ウィズ・ジョン」の曲だと紹介していて、そうだったのかーと思う。相変わらずといえば相変わらず、でも独特の味わいがあって良かった。

蒼二点の出番は最後。蒼二点のライヴを観るのははじめて。メンバーはすずきあおい(ヴォーカル/トイピアノ)、荻野和夫(リュート)の2人に、今回はゲストで壷井彰久(ヴァイオリン)が加わっている。ゲストとはいえ、壷井彰久の活躍がめざましい。ポリフォニックな旋律によるソロを聴かせるときもあれば、ニュアンス豊かな流麗なメロディを奏でることもあり、あるいはピチカートでそっと唄のバックに彩りを添えるなど、曲によって自由自在で幅広いテクニックを駆使していた。しかもどれも非常に曲に素直にあったアレンジ。前から蒼二点のメンバーとして一緒に活動しているかのように自然に溶け込んでいて、ひたすら、うっとりと聴き入ってしまった。

それに対し、荻野和夫のリュートは音量バランス的に少し奥に引っ込んでしまっていたのは否めない。でも全体の音数が少ないから、集中して聴けばリュートの音色もしっかりと聴こえる。弦を慎重にはじく指使いのやさしさがそのまま音になったような、柔らかいけれど楽器のボディが共鳴して豊かな響きのある音。この編成のなかにあっては、小さい音でもしっかりと曲を支えていて、サウンドの要となっていた。荻野和夫のリュートの演奏を初めて聴くことができたのがとても嬉しい。

すずきあおいは、トイピアノのほかにフィンガーシンバルなども使用していたが、曲によってかすかにヴォーカルの合間に音を添える程度。楽器の演奏は必要最小限で、ヴォーカルに注力している様子。美しくて端正な唄声だった。でも時折かすかな息づかいで微妙に声を震わせたりもして、ちょっと大人っぽい、色っぽい雰囲気。特にオリジナル曲の「私達は遠い星」で、微妙にけだるい感じで唄うのが印象的だった。

演奏曲はオリジナル曲が数曲に、あと古楽やトラッド、ロックのカヴァーなど。意外なところでは Nirvana の"Smells like teen spirit" を演奏。唄も楽器も目立つ旋律はしっかりそのままコピーしていて、構成もかなり元曲に忠実だったと思うのだけれど、雰囲気はもちろん全然違っている。見事に蒼二点ヴァージョンとしか言いようのない演奏。でも他の曲に比べると、曲の最後のほうのサビではすずきあおいのヴォーカルがかすかにシャウトするような気力が篭っていたり、荻野和夫と壷井彰久の演奏もリラックスした雰囲気。曲の前のMCのとき壷井彰久が「ノリノリで行こう」とか話していたし。

途中のMCでは、メンバーが語る以外にもP.A.の吉田隆一が突っ込みを入れていてとてもおもしろかった。ステージ(といっても段差があるわけではないけれど)にいるわけでもないのに、ハンドマイクを手にしてかなりたくさん喋っていた。他のバンドのセッティングもサポートしていたからてっきりお店の人だと思っていたのだけれど、そうではなくて蒼二点でP.A.をやってほしいとお願いされて今回来たのだそうだ。本来はバリトン・サックス奏者で、東京中低域に参加しているらしい。「今度はP.A.ではなくて演奏で誘ってください」という発言に、荻野和夫が「蒼二点にサックスはちょっと」というようなまじめな受け答え。つい背筋を伸ばして聴いてしまうような高尚な演奏の曲間で、何度か大笑いしてしまった。

終演後、楽器を片付けながらお客さんの相手をしていたメンバーの横を通り、忙しそうだからそのまま帰ろうとしたら、なんと荻野さんのほうから声をかけてくださった。お会いしたのは6月のDamon & Naomi with Kuriharaの帰りにエレベーターで一緒になってお話ししたときだけなのだけれど、覚えてくださっていて非常に感激。初めて観る蒼二点のライヴは本当にすばらしかったし、めいいっぱいの充実感に満たされながらお店を後にした。

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