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鉄路の男

「ポーランド映画、昨日と今日」と題された特集上映が京橋の東京国立近代美術館フィルムセンター小ホールでおこなわれていて、アンジェイ・ムンク監督作品『鉄路の男』(1956年/白黒/80分)を観にいった。仕事を終わらせて、上映開始時刻ぎりぎりに駆けつけたときには場内はほぼ満席。満席だと入場できないことになっているので危ないところ。

映画の内容は、老機関士オジェホフスキが夜行列車に身を投げて亡くなった事故の調査で、関係者がさまざまな証言をおこなうのにしたがい、故人の人物像が明らかになっていくというもの。芥川龍之介の『羅生門』のような構造のストーリーだが、実際に黒澤明が映画化した『羅生門』からインスピレーションを得て作られたらしい。

オジェホフスキはものすごく頑固な性格で、年功序列など古い価値観にとらわれた人間である。チラシの解説には「高潔な人間性」と書かれているので、最初のうちは嫌な人間であるように描いておいて、次第に良いところが見えてくるようになっているのかと思っていたら、いろいろなエピソードが語られるほどにますます感じ悪いところが浮き彫りになっていくので、その点はむしろ意表をつかれてしまった。若い運転士に対してこれはあんまりだと思うような非常につらい仕打ちを仕向けるだけではなく、上層部からの命令にも従わない。非常に嫌な困ったやつだなという印象はぬぐいようがないのだけれど、そこはこの映画が隣国ソ連のスターリン死後3年足らずで作られていることを考慮に入れる必要がある。

受付で配布されたプリントによると、「フルシチョフのスターリン批判(2月)とハンガリー事件(10-11月)に挟まれた56年9月に完成したこの作品は、労働現場の意向を無視した生産合理化運動や空疎なスローガン連呼を暴いた、世界で最も早いスターリン主義批判映画である。」と書いてある。それにしても、このオジェホフスキの頑固さはあんまりだと思うが、周りに迎合することなく自分の信念をしっかり持ち、それにしたがって生きていく在りかたは確かに高潔だと言うことができる。当時のポーランドにおける映画の製作スピードがどんなものだったかはわからないけれど、フルシチョフのスターリン批判以前から準備して制作をはじめていたのだとして、相当思い切った内容の映画であることは言うまでもない。

オジェホフスキは本当に頑固で嫌なやつすぎて、わたしとしては解説の内容がいまいちぴんとこない点もなくはないのだけれど、ソビエト映画回顧展やチェコ映画祭で旧共産主義国についてあれこれ考えることが多い昨今、また非常に興味深い映画に出会うことができて有意義だった。

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